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今後の観光需要の回復を見据えたホテル投資を検討する場合、消費額の多い富裕層をターゲットとしたラグジュアリーホテルが候補としてあげられます。一方、関西では富裕層の受け皿となるホテル不足が課題になっているのが現状です。関西のラグジュアリーホテル事情やホテル不足による懸念点などをまとめました。
2022年6月に、日本政策投資銀行が「2026年 関西2府4県におけるラグジュアリーホテルの需給推計」を発表。この調査によれば、2026年に日本を訪れる外国人観光客が2,600万人にまで回復した場合、4,500室余りの需要に対して供給数は1,300室余り、と客室数が3割近く不足すると推測されています。
特にホテル不足が顕著になっているのが大阪府で、需要の半数近くしか供給数を満たせない恐れがあるとのこと。大阪府では2025年に開催が予定されている大阪・関西万博に向けて、うめきたエリアを中心にラグジュアリーホテルの建設が計画されていますが、それでも客室数が不足する見通しとなっています。
日本政策投資銀行が訪日経験のある外国人を対象に行なったアンケート調査によれば、次に訪日する際は以前よりも長く滞在したいという声が多かったとのこと。このまま関西のラグジュアリーホテル不足が解消されなかった場合、富裕層が旅行先を変更する可能性があります。消費額の多い富裕層を逃してしまうことは地域経済にとって大きな打撃となるため、ラグジュアリーホテル不足は早急に解決したい課題となるでしょう。
ラグジュアリーホテルとは一般的に価格帯が最高クラスのホテルを指しますが、日本政策投資銀行が行なった関西のラグジュアリーホテルに関する調査では、2名1室利用時の客室単価が10万円以上の宿泊施設をラグジュアリーホテルとして定義しています。
関西のラグジュアリーホテル不足が問題になっている一方で、ホテル全体の総客室数そのものは2016年以降から増加しています。2020年の総客室数は261,000室、と2016年から67.1%増の結果に。情勢の変化で観光客が減少した2020年においても都市部を中心にビジネスホテルが急増した背景には、開発段階だった案件の竣工・開業したことが影響していると推測されます。
関西のなかでも、ホテルの急増が特に顕著だったのが大阪と京都の2つです。ただ、急増しているのはあくまでも比較的価格の低いビジネスホテルが中心となるため、富裕層旅行者の受け皿となるラグジュアリーホテルについては、潜在的な需要に対して供給が追いついていないのが現状です。
2020年以降に関西で新規開業した主なラグジュアリーホテルの数を見てみると、大阪市内に1軒、奈良市内に2軒、京都市内に11軒、と京都に集中していることが分かります。京都では今後の観光需要の回復を見込んだ動きが活発になっており、それが日系・外資系を問わずにラグジュアリーホテルの新規開業が相次いでいる理由の1つになっているようです。
一方で、大阪市内では日本初上陸となるマリオネットグループのWホテル大阪が2021年3月に開業。2020年以降に新規開業したラグジュアリーホテルのなかでも、客室数337と最も規模の大きい施設となっています。ただ、新規開業数が1軒のみでは観光需要が回復した際に、富裕層の受け皿として十分とは言えないでしょう。
奈良市内はというと、2020年にラグジュアリーホテルが2軒開業。近年増加しているインバウンド観光客の受け皿となることで、日帰り客が目立って宿泊客が少ないという地域課題の解決となるか注目されています。
ラグジュアリーホテル不足で想定される懸念点としては、希望するグレードのホテルがないことで富裕層旅行者がほかの地域の宿泊先を選んだり、旅行先を変更したりすることが考えられます。特にラグジュアリーホテル不足が顕著な大阪においては、新規開業が相次いでいる京都に宿泊客が流入する可能性も考えられるでしょう。
観光消費額の多い富裕層が周辺地域に流入してしまうことで、地域経済が活性化する機会を損失する恐れがあります。
情勢の変化で観光客が減少する以前の関西では、インバウンド需要の拡大で外国人観光客が急増。2019年には、2府4県の日本人を含む延べ宿泊者数が1億人を突破し、ホテルマーケットが活況を見せていました。
その一方で課題となっていたのが、一部の人気観光地における「オーバーツーリズム問題」。オーバーツーリズムとは観光地のキャパシティ以上の観光客が押し寄せることで、人混みや交通渋滞、トイレ不足、ゴミなどが問題視されています。
オーバーツーリズムは地域住民に悪影響を及ぼすだけでなく、観光客にとっても「人がたくさんで観光地を満喫できなかった」「ゴミだらけで景観が台無しだった」などの理由で観光体験の満足度が減少してしまうことも。オーバーツーリズムが原因で観光客の減少を招く恐れもあるため、持続可能な観光地づくりが求められています。
持続可能な観光地づくりのポイントとなるのが、「観光客の分散」です。日本でも特にオーバーツーリズムが深刻な課題となっている京都市では、観光客の一極集中を防ぐために「時間の分散」「季節の分散」「場所の分散」の3つに取り組んでいるとのこと。観光客の数を制限するのではなく、観光客を広域に分散させて観光地のキャパシティを広げることが、オーバーツーリズムを解消するカギとなってきます。