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地域の空き家や古民家、商店街の空き店舗などをネットワーク化し、ひとつの宿泊施設として運営する「分散型ホテル」は、旅館業法改正によって1室から営業が可能になったことを受け国内でも急速に広がっています。ここでは、分散型ホテルのメリット・デメリット、代表的な事例を押さえたうえで、歴史的建造物や商店街連携、コンテナ&レスキューホテルといった地域活性化につながる運営手法をご紹介します。
分散型ホテルは、地域の魅力をそのまま宿泊体験として提供する新しいホテル形態です。
具体的には、古民家や空き家、商店街の空き店舗、さらには歴史的建造物まで、地域に点在する複数の建物を一つのホテルとして運営し、利用者は個性豊かな客室を移動しながら滞在を楽しめる仕組みとなっています。
発祥はイタリアの「Albergo Diffuso(アルベルゴ・ディフーゾ)」協会が2006年に設立した運営モデルで、日本でも「SEKAI HOTEL」(大阪)や「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」(愛媛)などが代表的な成功事例として知られています。
また、2018年の旅館業法改正によって、点在する施設をまとめてフロントを一カ所に設置することが認められ、これまで宿泊業への参入障壁だった最低部屋数の規制が緩和されたことも普及を後押ししています。
分散型ホテルの最大のメリットは、地域資源をそのまま活用できる点です。歴史的建造物や古民家をリノベーションすることで、観光客に非日常体験を提供しながら、地域経済の活性化や空き家問題の解消にも貢献できます。
また、一棟貸しのスタイルを選べば、コロナ禍においても他の宿泊客との接触を抑えた安心・安全な滞在が可能となり、感染症対策面でも注目されています。
一方、デメリットとしては、複数の建物を横断的に運営する難しさが挙げられます。
チェックイン・チェックアウトを一元管理するためには、PMS(物件管理システム)やデジタルキー、IoTセンサーの導入が不可欠ですが、初期投資や運営コストが増大しやすい点は課題です。
また、点在する施設間の移動に不慣れな利用者が迷いやすいという声もあり、適切な案内表示や地域ガイドの整備が求められます。

画像引用元:SEKAI HOTEL公式HP
(https://www.sekaihotel.jp/area/fuse/)
大阪の「SEKAI HOTEL」は商店街の空き店舗を再活用し、街歩きを楽しみながら宿泊できる都市型分散ホテルです。築年数の異なる複数棟を改修し、客室ごとに異なるインテリアが施されているため、リピーターも飽きることなく滞在を楽しめます。

画像引用元:NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町公式HP
(https://www.ozucastle.com/)
愛媛県大洲市にある「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」は、築百年以上の町家や蔵を客室として活用し、城下町の景観をそのまま残した歴史的建造物型の分散ホテルです。国の登録有形文化財を含む物件をリノベーションしたことで、文化財保護と観光振興を同時に実現し、地域のシンボル的存在となっています。

画像引用元:NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町公式HP
(https://misakijyuku.jp/)
神奈川県三浦市に位置する「三崎宿」は、港町ならではの風情を感じられる古民家や漁師町の家屋を改修し、海産物市場や地元飲食店と連携したツアーを提供することで、まち歩きと体験型観光を組み合わせています。地域全体を宿泊施設に見立て、食や体験を通じて観光客と地域住民をつなぐ新たなモデルとして注目されています。
全国各地で増えている歴史的建造物型ホテルは、城下町や伝統的町並みをリノベーションすることで、その地域に根付いた文化や暮らしを体験可能にしています。
例えば、築百年以上の町家を改修した宿では、もともとの土壁や欄間を生かした和の趣を演出し、滞在者に時間の流れを忘れさせる情緒的な空間を提供。こうしたホテル運営は文化財保護と観光誘客を両立し、行政や地元団体との協働によって保存修繕費用を抑制しながら長期的な活用を目指すモデルとなっています。
また、古民家ステイにおいては、地元の職人やアーティストと連携し、宿泊者向けワークショップを開催することで交流創出や新たな観光資源の発掘にもつながっています。
地域の恒例祭やマルシェ、夜市といった地域イベントに合わせて宿泊プランを提案するホテルも増えています。商店街の空き店舗をリノベーションした施設では、地元飲食店やカフェとコラボレーションした朝食サービスを行い、宿泊客に“まちを歩く”こと自体を宿泊体験に組み込む方法です。
さらに、地元商店街が主催するスタンプラリーやワークショップのパスポートを宿泊プランにセットすることで、観光客が地域全体をめぐる動線を作り出し、消費拡大と回遊性向上に。こうした取り組みは滞在中の時間をまち歩き体験に変え、宿泊費以外の地域消費を誘発する効果があります。
災害時やイベント時の臨時施設として注目を集める「レスキューホテル」は、コンテナを活用した可搬性と設置のしやすさが特徴です。株式会社デベロップが運営するレスキューホテルは、地域の医療拠点や行政拠点の駐車場に迅速に設置できるため、平時は防災訓練に活用し、非常時には臨時医療施設の付帯施設として稼働する二重の機能を備えています。
こうしたモデルは防災・減災の観点からも評価が高く、自治体の総合防災訓練への出動実績が多数ある点が特長です。